2012年4月19日木曜日

自民党「TPPそのものに反対」

JAグループ代表の訪問に対し自民党執行部が「TPPそのものに反対」と明言。メディアが黙殺する自民党のTPPに対する態度とは?

TPP阻止でJAグループ 与野党代表に要請 慎重な意見相次ぐ  (04月18日)

 JA全中の萬歳章会長らJAグループ代表は17日、環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、与野党4党に要請した。大型連休中に野田佳彦首相が訪米し、日米首脳会談でTPP交渉へ参加を表明しないよう強く求めた。民主党は国会の中で十分議論をする必要性があると発言し、国民新党と公明党は交渉参加を表明する段階にはないと強調。自民党はTPP参加に反対の立場を明確に表明した。各党とも、現段階での交渉参加表明に慎重な発言が相次いだ。

 自民党に対しては、谷垣禎一総裁、大島理森副総裁らに要請。外交・経済連携調査会の高村正彦会長が、TPPに関する六つの判断基準について説明した。聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加には反対との文言について「TPPそのものに反対しているのと同じ」と言及。谷垣総裁は「国がおかしくならないよう政権交代を果たしたい」と述べた。

 JAグループの代表団が17日に各政党を訪問し、野田総理の訪米時にTPP交渉への参加を表明しないよう要求したわけですが、この際に会談した自民党の執行部、谷垣総裁・大島副総裁・高村正彦議員から「TPPそのものに反対」との発言がなされました。

 これは3月7日に取りまとめられた自民党の「TPPについての考え方」を読めば当然の発言なのですが、この件については各メディアがロクな報道をしていないため、自民党がTPPに対して反対の立場を取っていることを知らない人が多いようです。

 自民党HPの一番上には「日本再起のための政策原案」と銘打って、次期衆院選のマニフェスト原案が掲載されており、その中には「TPPについての考え方」もPDFで出ているのですが、TPP問題で自民党を批判している人は、この程度の文章も読んでないのでしょうか?

 いつまでも誤解が蔓延するのも困りものなので、ここはPDFの記述を見ながら自民党のTPPについての考え方を確認して置きたいと思います。以下引用(PDFはコチラ)

◆TPPについては、国民の理解を得る為の情報が決定的に不足しており、 政府の改善努力も全く見られない。従って、国益を踏まえて、何を取り、 何を守るかの国民的議論が未だ深まっていない。

 国民的議論の問題については、すでに前エントリー「TPP協議から離脱せよ!!」で書きましたが、外務省側も交渉内容を秘匿する気満々で、そもそも必要な情報を出す意志がないわけですから、議論が深まるわけないんですよね。この点、自民党の立場は至極常識的なものと思います。民主党は政権交代前から情報公開を謳ってきましたが、ま、連中のいう情報公開とはこの程度のもんです。

◆昨年11月のAPEC前に、野田総理は「(交渉参加の為の)関係各国との協議を開始する」と表明したが、これは国内的事情によって、敢えて曖昧な表現にしたものであり、外交の常識では、事前協議の段階から事実上の交渉は始まっていると言わざるを得ない。

 事前協議の段階から事実上の交渉は始まっているというのもその通りなんですが、そもそも菅直人前総理がTPPとか言い出したときも、諸外国との下交渉は全くやってなかったと国会で暴露されてましたからね。大きな声で思い付きを叫ぶだけで、まともな根回しなど絶対にしないのが民主党ですから、この点でも自民党が危惧を抱くのは当たり前といえば当たり前でしょう。

◆アジア太平洋地域における経済連携については、様々なオプション・進め方(例えば、ASEAN+3/+6など)が考えられ、わが党もその構築の必要性については、関係各国、国内各層と共有してきたところである。 更に、日・EUや日・中・韓の経済連携も着実に進めていくことが重要である。

 この辺が各メディアから玉虫色と書かれた理由なのでしょうか? 率直に言って日中韓の経済連携をこれ以上進める必要はないと思いますので、この文言に関しては多少不満がありますが、まあ「自由貿易そのものに反対しているわけではない」というポーズを取ったんでしょうなあ。

◆また、アジアが今後も世界の成長センターとしての地位を維持していく為に、米国との経済的な繋がりを一層強くしていく必要があることは言うまでもない。わが国は、米国も含めたアジア太平洋全体の経済発展に主体的に取り組んでいく。

 これはTPPに反対することで対米関係を毀損するのではと杞憂している人への文言ですかね。一部保守系論者は「TPPが対中国包囲網」だと信じているようですが、TPPと安全保障は何の関係もありませんし、米国内にも根強い自由貿易反対論者がたくさんいるので、TPP反対ごときで日米関係が決定的に毀損されるわけはないんですが。

◆政府が11月と同様に二枚舌を使いながら、国民の知らないところで、交渉参加の条件に関する安易な妥協を繰り返さぬよう、わが党として、この段階から以下の判断基準を政府に示すものである。
政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
②自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
③国民皆保険制度を守る。
④食の安全安心の基準を守る。
国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。
政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。

 この段落が一番大事なところでしょう。「聖域なき関税撤廃を前提にする限り」とは、ちょっと分かりにくいかもしれませんが、TPPはそもそもあらゆる分野での関税撤廃を前提にしたものですから、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」ということは、「コーヒー豆を使うことを前提にする限り、コーヒーを注文することに反対する」と言っているのと同じで、これがJA幹部に対する高村議員の「TPPそのものに反対」という発言につながってくるわけですね。

 ISD条項にも合意しないとありますが、ISD条項抜きのTPPは考えられません。企業が投資対象国政府を訴えることを可能にする条項ですが、あらゆる分野での関税撤廃を促すTPPでは、この条項を使って外国企業がムッチャクチャな訴訟を起こす恐れが否定できないわけで、これに合意しないというのは当然の見識です。

 政府調達・金融サービス等の文言は、簡易保険や郵便貯金、公共事業への介入を防ぐ意味合いがあり、郵政見直し法案ともあいまって日本のTPP参加を難しくするものです。

 他にも国民皆保険、食の安全(遺伝子組み換えの排除)など、主要な論点はカバーされており、この基準に従って判断する場合、どうあがいても日本がTPPに参加することは不可能なんですね。

 だったら単純に「TPP反対」と言えばいいじゃないかという意見もあるでしょう。私もそう思います。しかしTPP推進派を抱えながら党を割らずにTPP反対へ持っていくには、これ以外の方法はなかったとも思います。それを称して玉虫色というならば、じゃあ賛否両論入り乱れて党論の一本化もできない民主党は何なのか。その辺をぜひ各紙の記者にご説明いただきたいところです。

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