Twitterでフォーリン・アフェアーズ・ジャパンをフォローしているのですが、テルアビブ大学のアザル・ガット教授が07年8月号でおかしなことを言っていたようなので一応取り上げておきます。
現在の中国は、日独が戦争で敗れた1945年以降、姿を消していた権威主義的資本主義パワーの再来だ。今後、権威主義的資本主義がリベラルな民主主義への代替策とみなされるようになるかもしれない。bit.ly/1GXH2Hフォーリン・アフェアーズ・リポート
— フォーリン・アフェアーズ・ジャパンさん (@foreignaffairsj) 2月 3, 2012
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これ中国の台頭について書かれた論文みたいですね。中国が「権威主義的」だってんなら分かります。有史以来あの国は権威主義的ですから。それを言うにはいっこうに構わないんですが。しかし日本まで一緒にしてくれるなよと思いませんか。
イスラエルの学者がドイツを敵視するのは当たり前だし、ドイツと同盟関係にあった日本のことを快く思わないのも分からないではないんですが、それにしても日本が「権威主義的資本主義パワー」だという理屈は大いに不愉快ですね。そもそも「権威主義的資本主義」という言葉で何を言わんとしているのか。こっちも金を払ってまでフォーリンアフェアーズを読んでるわけじゃないからよく分からんのですが、つまりアメリカさんは権威主義的じゃなかったとおっしゃりたいんでしょうか?だとしたら的外れもいいとこです。
世界でいちばん統制的に第二次大戦を戦った国はどこだったか?ソ連?ドイツ?どちらも違う。答えは、アメリカ合衆国だ。ドイツなんて、民需へ流れ込む物資のカットも出来なかったんだ。これに比べたらアメリカの統制はじつに徹底したものだ。鉄道、船舶、自動車、航空機、通信はいうに及ばず、報道や映画まで統制した。そのガチガチの統制経済体制が、なんと真珠湾から三ヵ月後にはもう立ち上がってフル回転していたんだ。(中略)あまり知られていないことだけど、日本では戦時中、温泉旅行がけっこうブームになってた。これなんかも外国では考えられないことだ。アメリカでは、1942年にはもう家族のドライブも鉄道旅行も禁止だぜ。金属のオモチャとか鉛筆の金属サックすらも製造は厳禁された。資源があり余っていたという印象のあるアメリカだけども、じっさいには日本以上に節約を強制したわけ。これ、一事が万事でね。 p.38-9
軍需に必要な資材の配分すら統制できなかった日本。民需へ流れ込む物資のカットもできなかったドイツ。それに比べて徹底した統制を行なったアメリカ。よく考えて下さいよ?「戦時だから!」という理由で鉛筆の金属サックすら製造を厳禁するアメリカのような国のことを、普通は「権威主義的資本主義パワー」と呼ぶんではないんですか、アザル・ガット教授?
まあ、一流と呼ばれてる雑誌にもこういうおかしな論評はたくさん載ります。日本でも文藝春秋とかにわけのわからない論文が掲載されて辟易することありますから、そのへんの事情は洋の東西を問わないんでしょうが、それでも今回あえて取り上げてみたのは、世界で最も統制的に戦争したのが「反共の権化」だと思われてるアメリカだったという逆説に気づくのは大事だと思うからです。
現在でもアメリカの統制的な体制は全然変わってないんで、例えばもうすぐスーパーボウルですけど、アメリカ一番人気のフットボールを統括するNFLの構造は「共産主義まがい」と言われてます。人気チームがどれだけ稼いでも収益はNFLが持っていくという構造になってるんですね。日本のプロ野球なら巨人があり余る金にモノを言わせて他球団の主力を買うこともよくありますが、アメリカの国技フットボールにはそれがない。NFLは収益をいったん上納させたうえでリーグの各チームへ平等に分配することで、特定のチームだけがあり余る資金力にものを言わせて勝ちまくれないように、常に下剋上の戦国時代を演出できるようにしてるわけです。
こんなシステム、ナベツネさんがNFLチームのオーナーだったらさぞかし激怒するでしょうけど、リーグ全体のことを考えれば優れたシステムだと言わざるを得ない。まさに統制上手なアメリカの面目躍如といったところでしょう。国技相撲が日本人の国民性や本音をしっかり反映しているように、アメリカの国技フットボールもアメリカ社会の本音を反映しているわけです。
結論としては、我々が思ってる以上にアメリカは権威主義的な統制国家だと知っといた方がいいということなんですが、実はこのことと現在の日本国財務省には非常に大きな関係があると言われています。次回はそのことを書いてみようかと思います。
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