自宅のビデオテープを整理していたところ、ずーっと昔にNHK教育で放送されたアメリカのドキュメンタリー番組を発見しました。非常に考えさせられる内容だったので、デジタル化してHDDに残しておいたのですが、Dailymotionのアカウントを取ったので、これを機にネット上へアップロードしてみました。
番組の放送日時は不明ですが製作は米国WGBH。著名な反人種差別運動家のジェーン・エリオット女史が、小学3年生の教室で「目の色によって生徒を差別する」という実験を行い、子どもたちに人種差別がいかに愚かな行為かを肌で実感させるというプログラムです。
エリオット先生の暮らしていたアイオワ州ライスビルは、人口1000人の小さな町で町民全員が白人という、アメリカではかなり特殊な社会ですが、こうした環境のなかでエリオット先生は人種差別を身近な問題として捉えることができ、差別意識を持たない人間を育てようと腐心してきたそうです。
まずフィルムを見て私が驚いたのは、「肌の色が違う人を見た時どう思うか?」と聞かれた子供が「バカな人たち」と素直に答える場面です。黒人のことをはっきり「ニガー」と呼んでいる子もいました。しかもまったく悪びれもしていない。これが60年代末から70年代にかけてのアメリカの雰囲気だったかと思うと慄然とさせられます。
こういう社会環境のなかで堂々と人種差別への闘争を始めたエリオット先生の胆っ玉には感服しますね。こういう一歩も退かない強靭な個人の意志というものは、良くも悪くも隣百姓的な精神に生きる日本人に欠けている部分ではないか。
さて、実際に実験授業が始まり教室へ差別が持ち込まれると、昨日まで仲良くしていた子供たちが途端にケンカを始める。しかも暴力では何も解決しないことに子供たちはあっという間に気づいてしまう。
しかし、さらに驚かされるのは、根拠のない差別によって「自分は優れた人間だ」と自信を持った子供たちのテスト成績がアップしていることです。何の根拠もない差別によってさえ、人間は自信を得て能力を向上させることができるという悲しい事実。この場面では人種差別というテーマ以上に、人間が持つ自信というものの本質的なもろさ、いかがわしさが暴露されていると言えるでしょう。
最終的には、エリオット先生の卓越した指導力もあり、子どもたちはついに差別の愚かさを学びとるに至りますが、差別の象徴であったカラーを引きちぎる子供の姿が、実はナチに刺青をされたユダヤ人の怒りと一直線に通じていることを思うと、微笑ましい光景とばかりも言っていられない。壮絶な映像です。
エリオット先生をここまで反人種差別へ駆り立てたものは何だったのか? この授業が初めて試みられたのは1968年4月のことでした。つまり公民権運動の指導者だったキング牧師が暗殺された直後のことです。
エリオット:マーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺が、この授業を始めるきっかけになりました。人種差別については常日頃から話しあってきましたが、私はもっと徹底したやり方でこの問題を扱おうと決心したのです。キング牧師は私のクラスで今月の英雄に選ばれたばかりでした。その彼の死の意味を言葉で説明するのは不可能でした。
テレビでは白人の解説者が残された黒人の指導者に無神経な質問をしていました。「これからは誰が黒人たちの面倒をみるんですか?」「黒人たちはどうなるんでしょうね?」「誰が黒人たちを管理していくんでしょう?」 まるで黒人たちを烏合の衆だと決めつけたような質問の仕方でした。
また「白人の場合には妻が亡くなった夫の遺志を継ぐことがありますが、黒人にはそれができるでしょうか?」とも言っていました。その傲慢な態度を見て私は思いました。「白人の大人たちがこんな具合では、私の生徒たちはどうなるんだろう?」「こんな大人たちの影響を受けては大変だ」と。
そしてあくる日、私は例の授業を試みました。目の色で子どもたちを分けると、そこにはたちまちのうちに一つの社会の縮図が出来上がりました。
このフィルムは各地の刑務所など公的機関で、人種差別に対する教育の一環として採用されているそうです。エリオット先生自身もこの番組が放送された当時すでに教職を去り、全米各地の企業でこの試みを行っていたそうですが、確かにこのプログラムは全ての人々が受けるべきでしょうね。
エリオット先生は、この授業は人種差別に伴う犯罪を防止するために必要であり、人種差別が一掃されて犯罪がなくなり、このような授業を行なう必要がなくなれば、それにこしたことはないと言いますが、同時に子どもたちに対しては正しい方法でやらないと、かえって逆効果になってしまうかもしれないとも述べています。
確かにひとつ方法を間違えれば子どもたちを傷つけてしまう恐れのあるプログラムです。まず卓越した指導力あってこその実験ですから、他の教師たちがこの授業を実施したければ、まず教師自身がこの授業を受けてその意味を理解すべきだとも言っていました。「きちんと勉強すれば誰でもできる。私にだってできた」と。
さて21世紀になりアメリカにも初の黒人大統領が誕生しました。人種差別はアメリカから消えたのか? さにあらず。アメリカでは徐々に人種差別的な団体の活動が活発化してきているようです。
南部貧困法律センター(SPLC)の人種問題報告書によれば、2000年に602団体だった白人至上主義団体は、08年には926団体にまで増えているとのこと。00年比54%増の差別団体。アメリカ全体が人種差別を捨てきったとは到底言えない状況です。エリオット先生はいま何を思うのか?
参照
Jane Elliot’s home page A Class Divided – The Frontline documentary
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