オバマ大統領の支持率は4割台ギリギリというアメリカでは考えにくい低さ。民主党候補はオバマの選挙応援をいやがり、共和党は僅差の選挙区を着実に拾う。11月中間選挙の結果次第で上下両院を共和党が制圧する可能性も。政権レイムダック化は不可避の情勢だが、問題はこれがアメリカ国内に留まらず国際社会全体の秩序を破壊していくことだ。はたして歯止めはかけられるのか?
■中間選挙でさらにレイムダック化するオバマ政権 共和党は上院で過半数獲得の勢い (日経ビジネス)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140121/258555/?rt=nocnt
低迷するオバマ大統領の支持率、依然として不透明感のある経済状況、オバマケアを巡る世論の2分化が、同党の足を引っ張っている。選挙専門の有力調査機関は1月中旬、「民主党は下院で挽回するどころか現状維持すら困難。大敗の可能性大」との見通しを明らかにした。■オバマ大統領の支持率が過去最低に=WSJ/NBC調査(WSJ)
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304730304579434571802574570.html
調査は米国の成人1000人を対象に3月5~9日に行われた。オバマ大統領の支持率は41%と、1月時点の43%から低下し、過去最低を更新した。一方、不支持率は54%で、米医療保険制度改革法(通称オバマケア)のつまずきがニュースで大々的に報じられ、過去最高を記録した昨年12月とほぼ同じだった。外交政策に対する評価も今までで最も低かった。65%が「米国は間違った方向に向いている」と回答。57%が「今後も不況が続く」
3月11日に行われたフロリダ下院補選では、共和党のジョリーが民主党のシンクを僅差で破った。茶会系の過激な主張からやや距離を取り始めた共和党は、穏健路線の候補者に手応えを感じ始めている。大統領選で勝敗を決する「スイング・ステート」のフロリダでの敗北に民主党はショックを隠しきれない。
フロリダといえば、2016年大統領選挙における共和党候補の一人と目されるマルコ・ルビオ上院議員のお膝元である。6日にワシントンで開幕した保守派の政治イベント「保守政治行動会議」(CPAC)に登壇したルビオ議員は演説時間の多くをオバマ外交批判にあてた。
「全体主義に対抗する力を集められるのは米国だけだ」と力を込めるルビオ議員の危機感は大変なものだ。ウクライナ危機が勃発するやルビオは「相手が信頼できない人物であり、断固とした行動をとらなければ、挑発行為は防げないことを大統領が理解しなければ、プーチンのような暴君とは渡り合えない」と、これまた手厳しくオバマ大統領を批判してのけた。
マルコ・ルビオ上院議員
1月21日に日本の首相官邸を訪問したルビオ議員は、安倍総理との会談において「近隣諸国の日本の領土に対する不当な主張をかんがみ、安全保障分野の能力をさらに高める日本の努力を支持したい」と発言。民主党オバマ政権からはとても聞くことのできない言葉を耳にした安倍総理の喜びはいかばかりだったろう。
ここで留意すべきは、このルビオ議員の発言が単に個人的見解を表明したものではないことだ。これまた昨年8月21日に日本を訪問した米共和党ジョン・マケイン議員は、同じく安倍総理との会談後に都内で記者会見し、尖閣問題について「日本の領土であることは議論の余地がない。問題の性質は(領土)紛争ではない。中国が日本の基本的権利を侵害していること」だと強調。「南シナ海と東シナ海で中国から脅威を受けている国々は、共同戦線を張るべきだ」とまで訴えている。
産経新聞・ワシントン駐在員の古森義久氏は、ルビオ・マケイン両議員ともに尖閣諸島の施政権のみならず領有権も日本にあると明言したことを引き、共和党中枢において尖閣問題へのコンセンサスが形成されてきたと指摘している。私も同感だ。さらに言えばウォールストリートジャーナル紙も、社説で「米政府は尖閣諸島を日本領と認めよ」と主張している。ここまで見れば、野に下った米共和党や保守派の主張も、こと外交安全保障においては相当にまっとうであることを理解できるのではないか。
ジョン・マケイン上院議員
ウクライナ危機について「無気力な外交政策がもたらした究極の結果であり、もう誰も米国の強さを信じなくなった」とまで述べるマケインの焦慮は深い。ライス米大統領補佐官は11日、在外公館長らを集めた会議で「ウクライナ情勢は米国の指導力に関する基本的な事実を証明している」と述べ、各国を結集させる米外交の強さを強調し、「世界は米国を頼りにしている」とまで口にしたが、当のオバマ政権幹部がこのような言葉を口にしなければならなくなっている事態こそ、アメリカの弱さを浮き彫りにしている。このことに政権が気づいていないことは致命的といっていい。
オバマ大統領の指導力のなさが世界へハッキリ示されたのは、言うまでもなく昨年9月のシリア介入騒ぎだった。6月のホワイトハウス閣議で唐突にケリー国務長官がシリア介入を主張。このときは制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長がこっぴどく反論したため、シリア介入はいったん沙汰止みとなったが、9月にまた騒ぎは蒸し返され、この時は軍部も抗しきれず事態は介入寸前まで至ったが、ここでロシアのプーチン大統領が立ちはだかった。
プーチン大統領
プーチンはあくまでシリアをサポートする姿勢を崩さず、一方でシリア側に「化学兵器廃棄」を働きかけて、見事シリア側に飲ませてしまった。いったん米軍の空爆が始まってしまえば、ロシア側にできることは何もなくなってしまう。そこで「今後もサポートするから化学兵器の件は泣いてくれ」というプーチン・イワノフ側の巧妙な外交が功を奏し、米国は介入の大義を失って振り上げた拳を下ろすしかなくなったのだ。
この一件で中東におけるプーチン大統領の評価は高まり、逆に中東のアメリカ同盟国には深刻な衝撃が走った。プーチン自身も完全にオバマを飲んでかかるようになった。これがウクライナ危機に大きく影を落としていることは、西側の経済制裁表明に対して一歩も退かないプーチン大統領の態度を見ればよく分かる。
そもそもシリア介入騒ぎでは、米軍制服組が極めて慎重だった。にもかかわらず介入が方針として決定されたのは奇妙と言えば奇妙なことだった。これから戦を始めようかというのに参謀総長の意向が尊重されず、国務省の言い分だけに引きずられるとは尋常ではない。しかし、これには幾つかの伏線があった。オバマ大統領が自分に批判的な軍の高級将校を次々と排斥した結果、軍部の発言力が著しく弱まっていたのだ。
オバマ政権下で首になった将校の数は約200人ほどとも言われる。彼らはオバマ政権に批判的な意見を持つと思われていたという以外、特段の理由もなくして引退させられた。辞めさせられなくてもオバマの政策を嫌忌して自発的に辞めた将校も多い。
米軍最高の勲章メダルオブオーナーを含め、数々の栄誉ある功績を残したパトリック・ブレイディ退役陸軍少将は、オバマによって軍幹部が排斥されて士気の低下は著しく、勝利したいという意欲自体が米軍から失われてきているとまで語る。肝心の軍部からしてこういう状況だ。ペンタゴンの地位も相対的に大きく低下した。このことは軍予算削減にペンタゴンが全く無力であることからも如実に窺えよう。
オバマの軍軽視によるペンタゴンの地位低下が深刻な事態を招いている実例をあげよう。07年に中国軍の諜報組織が実施した作戦により新戦闘機F-35の情報が中国に流出。入手した情報を元に中国軍がJ-20戦闘機の改良を進めていたことが発覚した。
この事件の後、ゼネラル・エレクトリックが中国国営航空機メーカー「AVIC」と合弁会社を設立しようとした際、ペンタゴンは技術流出の危険ありとして反対したが、オバマはこの意見を聞き入れず設立を認可。結果、政府による技術分野のコントロールが甘くなり、以降も技術流出が進んでいるとワシントンタイムスが報じている。
東大准教授の池内恵氏が、オバマ大統領は米国の覇権負担を減らすコストカッターであり、政治がビジネスではないことを知らないア○だと評している。卓見と言えよう。
クーデター後のエジプトに対しては態度を右顧左眄して、武器援助を止めないと言ったにもかかわらず結局は凍結した。当然、エジプト政権と国民に不信感を与える結果となった。イランにロウハニ新大統領が誕生するや、サウジ・イスラエルとの根回しもなしに、いきなり融和的な態度を取って同盟国から不信を買った。中国軍がスカボロー礁を軍事占拠し、フィリピン・アキノ大統領が「中国はナチ」と非難しても、フィリピンへ明確な支援の意志を表明しない。インド・グジャラート州知事のナレンドラ・モディを準テロリスト扱いしながら、総選挙で首相に就任しそうだと分かれば途端に大使を送って対話を始める。それでいてインドとの関係をじっくり見直した形跡もない。
安倍晋三首相
昨年12月に安倍総理が靖国神社を参拝した際、米大使館はいわゆる「失望声明」を出したが、これも国務省原案は「強い失望(deeply disappointed)」だったというからただ事ではない。しかし、参拝翌日にペンタゴンが出した文書を見ると普天間移設問題の前進を評価してか「我ら両国の永続的なパートナーシップは、より強く成長していくのみ」と書かれており、国務省とペンタゴンの発言に全くバランスが取れていない。両省の声明に一貫性がないということは、大統領の頭の中がシッチャカメッチャカだということではないか。
こういう体たらくのアメリカに対して、同盟国・周辺国がある程度の距離を置いて対応しようとするのは当然である。離米傾向は別に日本の安倍政権だけに限った話ではない。サウジも、イスラエルも、フィリピンも、ベトナムもみんな考えていることなのだ。
こういった情勢を全く把握しない愚かな国内メディアは、連日連夜、日米関係の悪化をことさらに取り立て、アメリカの対日牽制を利用している。安倍叩きに米国の外圧を用いんと、「志村けんのバカ殿様」に登場するご家老よろしく、「殿、一大事にござります!アメリカ様がお怒りでございますぞ!」とご注進に必死だ。このいじましさを目に焼き付けておいてもらいたい。今や民主党、共産党、朝日新聞、毎日新聞こぞって「米帝の犬」なのである。野坂参三や宮本顕治が聞いたら、墓から飛び起きて嘆くのではないか。
さて威信低下著しい米国だが、4月からは中間選挙のシーズンへ本格突入する。共和党が11月に上院の過半数を制圧すれば、残るはホワイトハウス奪還のみだ。2015年の米政界は大統領候補選び一色となるだろう。米国のみならずオバマに「失望」した日本の保守派も2016年の大統領選挙に期待をかけている節があるが、果たして政権交代は米国の威信低下に歯止めをかけるものとなり得るだろうか?
確かに現在の大きな混乱がバラク・オバマという人物の無能さに起因している面が多いことは事実だ。2016年の米大統領選で共和党候補が勝利すれば、現在の混乱もある程度は緩和されるだろう。その意味で11月の中間選挙は大きな意味を持つ。しかし、米国の世界に対する影響力低下は歴史の趨勢であって、世界の無極化は今後も緩やかに進んでいくと覚悟しておかなければならない、と私は考えている。
第二次大戦直後、アメリカのGDPは世界経済総生産の65%以上を占めていた。世界経済の2/3はアメリカで持っていたのだ。しかし今のアメリカGDPは世界総生産の25%程度でしかない。戦後の覇者「2/3国家」は他国の成長に追われ「1/4国家」へ転落してしまった。この事実が持つ意味は重い。アメリカの国際的な影響力が相対的に低下するのは当然であり、そして今も続く新興国の経済成長を見れば、今後もこの傾向は止まらないだろう。
別に私はこのことを以て、アメリカ合衆国が滅亡するなどと低次元な議論をしたいわけではない。だが、国際社会とは荒廃した小学校の教室にすぎず、その教室にあって警察官を自負してきた米国も、今やその負担に耐えきれず役割を放擲してしまったという冷厳な事実への自覚が、日本社会に根本的に欠如していることは憂慮せざるを得ない。断言するが、アメリカの威信はまだまだ堕ちる。
これは日本国内で虎の威を借っているご家老衆の将来も暗いことを意味している。好むと好まざるとに関わらず、日本は自分の足で立たなければならなくなるだろう。善も悪もない現実として、である。
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