2013年6月6日木曜日

急転直下!インド対中軍拡を加速!!

5月26日、インド大手英字紙インディアンエクスプレスは、インド政府が中国との国境に山岳攻撃軍団を増設することを決定したと報道。またしても日本では報道されなかった衝撃の軍拡。その内容とは?


 インドのマンモハン・シン首相は、5月27日から30日までの訪日をつつがなく終え帰国の途に就いた。

 日本滞在中、経団連での講演をはじめ精力的な活動を続けたシン首相は、28日夜には日印首脳会談を待たずに首相公邸を訪問。安倍総理夫妻とシン首相夫妻の間で公式日程にない夕食会が行われるなど、両国トップ間にかつてなく深い友情が芽生えたことを内外に強く印象づけた。

 安倍総理夫妻との非公式夕食会から一夜明けた29日。日印首脳会談に先立ちシン首相夫妻は皇居に参内。天皇皇后両陛下ご引見の栄に浴した。

 異例ずくめの訪日のクライマックスは首脳会談後に行われた記者会見だった。

安倍総理年内に、天皇・皇后両陛下がインドをご訪問の予定です。これを機会に、両陛下のご健勝と、お国へのご旅行が、良い旅となりますことをお祈りし、また、われわれの日印の関係が、さらにいっそう豊かなものとなりますことを祈りまして、盃をあげたいと思います。

 安倍総理自身も年内の訪印に強い意欲を示しているという。日印関係が新たなステージへ入った今年、安倍総理ばかりか天皇陛下もインドを訪問される。日本はまさに満腔の敬意をインドに捧げた格好だ。シン首相が感動しないわけはなかったろう。

 しかも『事件』はこれだけで終わらなかった。首脳会談翌日30日のインド紙には、シン首相訪日を評価する1面トップ記事が続出した。

■インド各紙がシン首相の訪日で日印関係強化を訴え 「中国を鼻先であしらう好機」 MSN産経

 インド紙の論説は単に経済・貿易上のメリットを述べていたわけではなかった。日本との安全保障協力の意義を強調していたのである。

 曰く、「(※日本との)共同軍事演習を深化させることは、最近、インド領にずうずうしい侵入をした中国を鼻先であしらう好機となるだろう」

 曰く、「(※人民日報の)邪悪な警告は命運が尽きた」

 曰く、「日印が真珠の首飾りの破壊で手を携え」

 曰く、「トーキョー(日本政府)との団結」

 シン首相は胸を張ってインドへ帰国したことだろう。

 なぜインド紙は日本との安全保障協力を熱心に論じ評価したのか?

 そもそもインドは伝統的に非同盟外交政策を遵守し、中国に対しても重要な隣国として、過去に国境紛争があったとはいえ、できる限り友好的な関係を築こうと努力してきたのではなかったか?

 ましてインドは中国との間で二国間軍事演習さえ行っている国である。日本人がインドの複雑な政情を無視して、一方的な幻想を抱くことは危険だと戒められてきたのではなかったか?

 実際のところ、インドは変わりつつある。また、そのようにしか事態の推移を説明する方法はない。無論、インドの変化とはインド世論の変化を意味する。民主国家がドラスティックに政策を変化させるとき。それは国民世論が一気に動いたときである。

 そのきっかけが「デプサン侵入事件」だったことは明白だ。4月15日にカシミール地方において、中国兵数十人が印中国境のインド側実効支配線を越えて侵入。ラダック地域のデプサン峡谷に駐屯地を設置したことで、印中両軍がにらみ合いに入る事態が生じた。

 5月5日になって、両国政府は両軍が同時に撤退することで合意に達し、一触即発の緊張状態にはいちおう幕が引かれた格好だが、この事件がインド世論に与えた影響は極めて大きかった。

 メディアや識者の間では対中外交の見直しを迫る論調が続出。情勢の急変を受け、インド政府も対中防衛力整備の加速へ踏み切ることとなったのである。

 この間の経緯をインド大手英字紙インディアン・エクスプレスが詳細に報じている。以下訳出。



Incursion effect: Strike corps on China border gets nod

http://www.indianexpress.com/news/incursion-effect-strike-corps-on-china-border-gets-nod/1120823/0

侵入の影響:印中国境に攻撃軍団を増設

Pranab Dhal Samanta:ニューデリー、2013年5月26日

 政府は財務省の承認を得て、印中国境沿いに山岳攻撃軍団注1の創設を進めると決定した。インドに軍備拡張への努力を後退させる意志はないと示す目的がある。

 この計画はデプサンでのにらみ合いのおかげで弾みがつき、中国・李克強首相のインド訪問を準備している最中でさえ急いで議論が続けられた。政府はもはやこの件でグズグズすべきでないという合意に基づくものだ。

 信頼できる筋からの情報によれば、財務省がなおいくつかの説明を求めはしたものの、両省間で行ったり来たりすることを命じるような目立った反論は見られなかったという。

 今や国防省がなすべきことは公式な計画実施のため、内閣安全保障委員会へ最終文書を提出することのみである。新軍団にかかる費用は、兵士8万6千名、将校400名の新規増員を含めて約6500億インドルピー注2を超えるものと予想される。

 情報源によれば、この目的は中国による「カルギル形の軍事的冒険」注3に備え、チベット方面への反撃に着手できるようにすることにあるという。今のところ、新規二個歩兵師団、一個砲兵師団、二個独立機甲旅団がこの軍団に加わる予定で、実効支配線の各区域にまたがって展開する可能性が高い。

 国防省は年初にこの軍団を準備するにあたって陸軍の修正案を許可したが、一方で景気の厳しさから費用が法外であるとして、財政上の承認には深刻な疑義が呈された。昨年もやはり、北部地域が提案を突き返していたのだ。

 デプサン侵入事件が計画の進行を加速させたと、公式ソースが不承不承に認めようとも、今回の侵入は、中国側が要求する新国境防衛協定との関連で判断されるものである。3月初めにインド側へ手渡された文書には、国境未確定の実効支配線に沿って駐留する部隊の規模を現在のまま凍結するに等しい条項がいくつか含まれていた。

 これが警鐘となり、インドが中国の文書に返答しなかった原因となったかもしれない。その後に起きたデプサン侵入事件は、明らかにこの協定を調印するようインドに圧力をかける手段だったと思われる。結局インドはその協定文書を手渡したが、それはにらみ合いが解決された後のことであった。

 ニューデリーは、この協定を通じて実効支配線にまつわる条項を作り上げる自信を失ったわけではないとはいえ、軍備拡張への努力にいかなる制限を受けることも認める気はない。過去20年を通じ、中国は軍事的プレゼンスを強化し、チベット自治区における形勢を有利なものとしてきた。それは実効支配線での決まり切った処理にも影響を与え、インドは格差を縮めようとしている。

 インドが軍事情勢を改善するために重点的な取り組みを決定したのは、ここ2~3年の話だ。通信能力を向上させたり、ダウラト・ベク・オルディのような古い飛行場を甦らせたり、北東部に現存する飛行場へスホーイ戦闘機注4を配置するようグレードアップしたりすることを組み合わせた長期の作業となる。

 これに続いて、アルナチャール・プラデーシュ州防衛のため北東地域に新規二個歩兵師団を設置する。現在、この師団に砲兵部隊も参加することが計画されており、政府はアメリカから軽榴弾砲を調達する注5手続き中で、山岳地帯の起伏に富んだ地域に配置されるはずだ。

 情報源によれば、山岳攻撃軍団にこれら部隊を統合する計画は、いったん許可されれば直ちに5年がかりの作業となる、とのことである。


  1. 軍団は軍事用語で「二個師団以上で構成される集団」のこと。
  2. 本稿執筆時点での為替レートは1インドルピー=1.7439円。6500億ルピーは日本円に換算して1兆1千億円を超える額となる。
  3. 99年にカシミール地方のカルギル地区で、パキスタン軍が停戦ラインを超えてインド軍駐屯地を占領し、両軍が衝突した。
  4. インド空軍は近代化に注力しており、Su-30(スホーイ30)戦闘機約250機の取得を計画している。
  5. 米陸軍・海兵隊が制式採用しているM777 155mm超軽量野戦榴弾砲と思われる(インド陸軍は開発元のBAEシステムズ社と発注契約済み)。

※誤訳に関するお問い合わせは現在受け付けておりません(^▽^)

 インド陸軍は新規に約9万人の兵士を増員する予定ですが、これは陸上自衛隊定員数の約6割にあたります。

 1兆円にのぼる巨額の国費を投じて二個歩兵師団、一個砲兵師団、二個独立機甲旅団からなる方面軍を新設するわけで、しかも誰がどう見てもターゲットは中国ですから、これは常識的に考えれば対中大軍拡でしょう。記事にもミリタリーエクスパンションとハッキリ書いてあるのですよね。

 ちなみにインド陸軍の兵力は現役だけで113万人ぐらいと言われています。他に180万人ぐらい予備役がいますので、現役・予備役あわせた総兵力は300万人ぐらいでしょうか?

 まあ、人口があまりにも多すぎて把握できない国ですから、兵士の頭数もよく分からないんでしょうなあ。この上、さらに兵力を増やすかと思うと、ちょっと頭がクラクラしてきそうです。

 毎日新聞は相変わらず「インドは対中けん制に慎重 思惑にズレ」などと書いていますが、そう言ってるそばからインドが対中軍拡を加速させるとニュースが入ってきたのには大笑いでした。

 このニュース、日本ではレコードチャイナ以外まったく報じていませんね。自社の記事と整合性の取れないニュースには知らぬ顔の半兵衛を決め込む自称ジャーナリストたち。主観的願望と客観的事実を取り違えるのはそろそろやめにしていただきたいものです。

1 件のコメント:

  1. 翻訳ありがとうございます。
    日本メディアはどうしようもないですねぇ

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