2012年5月19日土曜日

世界ウイグル会議支援シンポジウム見聞記

5月18日(金)に東京内幸町・日本プレスセンタービルで「世界ウイグル会議を支援し中国の覇権と闘うシンポジウム」が開催された。ノーベル平和賞候補者ラビア・カーディル女史は何を語ったか?


 シンポジウム会場に到着するとすでに多くの関係者であふれており、参加者が次々と入場して盛況ぶりを感じました。最終的に一般入場者は400名程度でしたが、日本プレスセンターホールは立ち見も出ており、シンポジウムは大成功だったと言えるでしょう。

 以下、シンポジウムの内容を順を追って紹介。なお、会場では録音が禁じられていたため、引用する関係者の発言は私が現場で取ったメモを参考にしていることをあらかじめお断りしておきます。


 世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長が入場すると、会場は大拍手で迎えました。ウイグル人の代表者が一般の日本国民からこれほど暖かい歓迎を受けるというのは、歴史上なかったことではないかと思います。

 通訳についたのは在日ウイグル人のトゥール・ムハメットさん(写真右側)。私もよくTwitterでおしゃべりするんですが、さすがにトゥールさん日本語は完璧でした。

 さて、シンポジウム冒頭で話題になったのが、中国大使館が日本の国会議員に送りつけてきた例の抗議文。

ウイグル会議で中国大使が議員100人に抗議書簡 与野党議員100人超に(MSN産経)

2012.5.18 21:03

 中国から亡命したウイグル人の組織を束ねる「世界ウイグル会議」の日本開催に関し、中国の程永華駐日大使が日本の国会議員に抗議書簡を送っていた問題で、対象が与野党の100人以上になることが18日分かった。自民党有志の「日本ウイグル国会議員連盟」会長の古屋圭司衆院議員が記者会見で明らかにした。

 書簡を受け取ったのは、自民、民主両党、たちあがれ日本の国会議員。議員会館の事務所に14日届いた。議連の集計では、自民党だけで100人を超えた。

 古屋氏は、書簡が世界ウイグル会議を「反中国組織」と決めつけ、亡命ウイグル人組織を束ねる同会議のラビア・カーディル議長と接触しないよう求めていることを「脅迫状ともいうべき文章だ」と非難。書簡を受け取った自民党有志46人は18日、「日本への内政干渉だ」とする抗議文を程氏に送った。

  これにシンポジウム会長でもある平沼赳夫議員が怒りを露わにしました。

平沼赳夫 中国大使館から手紙が届いた。「ウイグルは人口が増えている」と書かれてあった。また「日本の議員はラビア・カーディルさんや世界ウイグル会議と関わり合いになるな」と書かれていた。無礼な手紙だ。主権を持つ独立国家の国会議員に送る手紙ではない。皆さん怒ってほしい。ウイグルにあたたかい力を貸すことが必要だ。

 続いて司会の藤井厳喜さんが石原慎太郎都知事のメッセージを代読。

石原慎太郎 今、中国はアジアの繁栄において脅威だ。ウイグル人と日本人は中国共産党の専制から民族の独立を守るため手を携えていこうではないか。

 自民党からは山谷えり子参院議員が登壇。

山谷えり子 10年前にウイグルを訪ねた。ダンスも教えてもらった。ウイグルの文化、心を大事にしてほしい。中国大使館からの手紙には「いかなる形でもラビア・カーディル氏に接触も支持もするな」と書いてあった。これは侮辱だ。自民党だけで100名以上に届いた。そこで抗議文を礼儀正しい文面で、石破茂さん以下46名の名前を連ねて、内容証明付きで中国大使館へ送りつけた。ウルムチ事件の国際調査団を作って実態を解明すべきだ。

※この間、会場を見回していると、レスラーのような体格をしたウイグル人男性が会場に睨みをきかせているのが目についた。カーディル議長のボディガードだろうか? VIPだけに警備は厳重である。

 同じく中国共産党に苦しめられているチベットからは、おなじみペマ・ギャルポさんが登壇。

ペマ・ギャルポ 今日は祝うべき日だ。世界初のウイグル議連が日本において誕生し、中国が反対したにもかかわらず、日本で世界ウイグル会議の大会を開催できた。お祝い申し上げたい。今回初めて日本が独立国家として重要な決意をした。日本がリーダーシップを発揮できることを示した。(※ウイグル会議の靖国参拝について)ダライ・ラマ法王も靖国神社に参拝している。私が苦しいとき中川一郎、石原慎太郎ら青嵐会が助けてくれた。あれから何十年もたって日本人の世論は目覚めた。中国共産党の党内闘争は単なる汚職事件ではない。体制を揺るがす可能性がある。他国にちょっかいを出すのは人民の不平をそらすためだ。中国が強いからではなくジタバタしているからだ。ウイグル、チベット、モンゴルは運命的な同胞だ。

 来賓のあいさつが終わったところで司会の藤井さんから「サプライズがあります」との発言。ラビア・カーディル議長が尖閣諸島購入のために作られた東京都の口座に寄付するとのこと!発表された途端に会場から「ぅぉぉおおお!!!!!!」と地鳴りのような声が。

 石原都知事の代理として平沼赳夫議員がカーディル議長の志をしっかり受け止めてくれました。「たちあがれ日本で搾取するようなことはいたしません」との発言で場内からは笑い声が。しかしカーディル議長の真意を聞いた会場は一転粛然となりました。

ラビア・カーディル もし私にお金があれば全額払いたい。私は個人の思いと歴史の証明として、たとえわずかな額といえども贈呈したいのです。中国はどこの領土であろうと欲しいときには「歴史的にわが領土だ」と言うのです。ウイグルも、チベットも、モンゴルも「古代からわが領土だ」と主張しているのです。お金で土地を買い取れるなら、わがウイグルの領土を買い取ってほしい。私は全能なるアッラーに祈ります。日本は必ずや尖閣を守ることができるでしょう。

 お金で領土を買えるなら安いものだというカーディル議長の言葉の意味を、参加者はこの後のディスカッションでいやというほど思い知らされることになりました。


 まずメインパネリストの桜井よしこ女史がカーディル議長に質問。「いまウイグルで何が起きているのですか?」

ラビア・カーディル ウイグル人はトルコ文明の中で最も文明の発達したグループだ。ウイグルの文化は数千年の歴史を持つ。中国人は最初は驚いていた。ウイグルの文明がいかに優れて美しいかを認め、人民日報で宣伝していた。しかし今日では「未開のウイグル人に文明を教えている」と言っている。

 1949-52年に125万人のウイグル人が虐殺された。王震のしわざだ。殺されたのは4種類の人たちだ。

  1. 裕福なもの
  2. 学者・知識人
  3. 地位・名誉ある指導者
  4. 宗教指導者

 その後に民衆の手から土地を奪い中国人にわたすという手口をとった。中共の狡猾なところだ。ウイグル人を貧しい状況に追い込めば、人間の基本的なもの(誇り、尊厳など)を失わせることができる。

 54-61年、3つの家に石鹸1つが配給されるようになった。自宅に風呂があると「ブルジョア的だ」と言って入浴できなくした。ウイグル人は川で体を洗うようになった。いかに生きるかだけを考える状況に追い込まれた。家畜以下の生活だ。

 ウイグル人にとって動物を飼うことは生活の一部だ。しかし中共はペットや家畜を飼い主の目の前で殺した。こんな残虐なファシストがいるだろうか? 中共はウイグル人に鳥を1日10羽殺すノルマを課しさえした。どんな鳥であろうと殺して政府に鳥の足を納めねばならなかった。

 中共はウイグル人10人が1つの鍋で食べ、20人が1つの部屋で暮らすように強制した。

 1957年にはウイグル統治について意見を述べろと言ってきた。中共の巧みな甘言にだまされて本当のことを言った人はひどい目にあった。だまされた学者・知識人が逆に中共を侮辱し反逆したということで、6万1千人以上が投獄された。タリム砂漠に追放され生還者は1000人未満だ。中学教師など下の方の知識人だけが残った。

 文化大革命でもウイグル人が虐殺された。すべての分野からウイグル人を追放すると、今度は宗教を攻撃した。続いて母国語を禁止して抵抗するものを逮捕・虐殺した。にもかかわらず北京の会議では「我々はウイグル人を保護している。ウイグル人を貧困から救っている。ウイグル人に文明を与えている」と報告されていた。

 我々こそが文明だ。ウイグル人は自分の文明を持って豊かに生きてきた。ウイグルの地下資源はNo.1だ。ウイグルに移住した漢民族は豊かに、ウイグル人は貧しくなっていった。中共はウイグルの建物も奪って軍に与えた。カシュガルの遺跡も破壊した。

 私たちはなぜこんなところで話さなければならないのか? これがウイグルの現実なのだ。ダライ・ラマ法王はチベットに戻れるようになるべきだ。私も自分の国土・国民と一緒に暮らせれば幸せだ。

櫻井よしこ 中共はウイグルの13~25歳ぐらいまでの若い女性を沿岸部へ強制的に移動させ、中国語で働かせて漢民族男性と結婚させている。神をも恐れぬ所行だ。女性がいなくなれば血が絶えてしまう。この実態は?

ラビア・カーディル 9.11以後、中共は喜んだ。自分たちをテロの犠牲者だと宣伝した。ウイグルにテロリストのレッテルを貼るようになった。絶滅政策の好機と考えたのだ。まずバイリンガル政策を持ち出して子供たちから言葉を奪い、ウイグル人をあちこちに散らばし、女性を強制連行し、中国本土の貧農をウイグルへ移住させた。

 ウイグル人の農業技術は優れている。収穫される果物は甘く、食べると口がはれるようだ。ウイグル人の86%が農民だ。そこへ中共は漢民族を連れてきてウイグル人に農業を教えさせた。こんなひどいジョークに耐えられず抵抗すると逮捕・投獄された。

 中共は宗教も弾圧した。イスラム原理主義者でないものをテロリスト呼ばわりし、それに反対した者を逮捕・投獄した。

 また農家から各戸1~3名の娘を差し出させ24万人もの若い女性を中国本土に強制連行した。09年7月5日のウルムチデモは女性の連行に反対するものだったのだ。ウイグル人は息子が投獄されても耐えてきたが、娘までひどい目に遭わされ耐えられなかった。なぜ自分の故郷で暮らせず連行されなければいけないのか?

櫻井よしこ 彼女たちは故郷に帰れるのか? 一体どうなるのか? ウイグルの男性たちは誰と結婚するのか?

ラビア・カーディル 彼女たちは中国本土のクラブなどで働かされている。親が探しに行くと暴行され命を落とすこともある。連行された場所が工場ならば閉じ込められて一歩も出られない。親との連絡は監視される。中国人はその工場を「~刑務所」と呼んでいる。マスコミは工場で働かされる女性たちに化粧をさせて捏造報道をしている。

櫻井よしこ 我々はもっと中国の人権侵害に注意を向けなければならない。中東では民主化が起きている。チュニジア、エジプト、リビアなど。シリアのアサド政権は1万人もの自国民を殺したが、今もアサド政権が倒れないのは中国とロシアが守っているからだ。

 しかし民衆の自由を求める心は否定できない。根源的な望みを抑えることはできない。中国は軍事費より高いお金を投じて治安を維持している。それでも民主化の流れは止められないだろう。中国国内で無数のデモが起きている。民主主義と人権を踏みにじる中共が勝利を収める可能性はない。いつかは我々が勝つに違いない。

 今後、どのように中国と闘いウイグル民族を守ろうと考えているか? それによって日本がどのように協力できるかも自ずと決まってくる。

ラビア・カーディル 私はウイグルの刑務所で暴力の恐ろしさを目の当たりにし、非暴力で我が民族を救う道を選んだ。世界ウイグル会議も非暴力の道を選んだので、私はその路線に賛同して議長に就任し非暴力による解決を訴えている。世界中の支部も呼びかけに応じ同じ路線を取っている。中共は我々に暴力を使わせようとするが、我々は暴力を使わない。ウイグルへの弾圧は限度を超えている。世界中が声を上げるべきだ。

 97年に母親の目の前で子供5人を殺すという事件が起きた。「煽動した」「政府に反逆した」「かくまった」「抵抗した」という罪で銃殺された。こういう事例は数え切れない。

 YouTubeに映像がある。逮捕連行されるウイグル人に中国人が暴行する映像だ。6~7歳の子供にも30人以上で暴行している。その30人の中には女性すらいた。誰も助けようとしないのだ。

 14億人の中国人を中共政府が洗脳している。暴行に耐えきれずに事件が起きている。中共はウイグル人をテロリストだという。ナイフを持ったからという理由でだ。しかし1人がナイフを持ったら周りの7人も一緒に殺していいのか? 中共が暴力を誘発しているのだ。我々は非暴力の運動を進めるが、殴られたときに無抵抗であることまでは求めない。

 我々は平和的な抵抗をする。チベット人も闘いをやめたことはない。ウイグル、チベット、モンゴルに平和があれば中国にも平和が訪れる。暴力事件の責任は中国にある。我々は非暴力だ。

櫻井よしこ ここで書籍を紹介したい。

 信じ難い、しかしリアルな記録だ。ラビアさんの言っていることは事実だ。

 ラビアさんが日本に来て、ウイグル議連もできた。これまで日本の政治は中国の顔色をうかがってきたが今やそうではない。チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相とも90名の国会議員が会っている。日本人は気づきはじめている。アジアの大国日本に何を望むか?

ラビア・カーディル 中国は大国になってきている。中共は周辺国を敵のように見せ国民の目をそらす。自由と民主主義がないから人民も真実を知る機会がない。この中共の脅威に対して中国人自身も、周辺国も理解しなければならない。

 アメリカのような民主国家が世界のリーダーになったからこそ世界の繁栄が生み出されている。中国がリーダーだったら世界はどうなるのか? この現実をアジア諸国が理解しなければ。

 中国はカザフスタン、キルギスタンを衛星国にしつつある。両国には150万人のウイグル人がいる。今回、大会参加予定者の一部が中国の圧力で日本に来られなかった。カザフ、キルギスはまだ気づいていないのだ。ウイグル人、チベット人、モンゴル人、そして中国人自身の自由・民主を求める要求に中共は応じなければならない。

 日本政府は中国との会議でこの問題を取り上げ、国会で決議してほしい。日本政府が高いレベルで我々を支援することを望んでいる。日本はアジアの強大国だ。日本はウイグル、チベット、モンゴルを救うために力を貸さなければいけないと思う。

櫻井よしこ 5月13日に日中首脳会談でウイグル問題が取り上げられた。野田首相は温家宝総理に人権対話の提案をした。現時点では首相も国会議員も正しいことを言っている。これを継続していくことが大事だ。これからもずっと抗議し、情報を広げ、くじけず訴えていくことが大事だ。

 ラビアさんの家族は今も刑務所にいる。早く自由のもとで暮らせる日が来るように。


質疑応答

Q : ウイグル地域での核実験は、中共の人類に対するテロ行為ではないか。人権・環境活動家の関心は中国にこそ向けられるべきだ。どのぐらいの放射線被害、健康被害が出ているのか?

A : 64-96年まで46回核実験が行われた。中共は砂漠でなく、ウイグル人の集中する5つの地区のど真ん中に核実験場をもってきた。内部機密文書によれば70万人が放射能で死んだ。この文書を公開した人物は機密漏洩で投獄され、この問題は抹殺されてしまった。

 ガン患者が増え、発ガン年齢が若くなった。ウイグル人はガッシリした体格の民族だったが、今のウイグル人たちは小さく、骨も弱くなってきている。また全く不明の病気に悩まされて顔が変形したり、障害者や奇形も増えてきている。患者への医療体制も全くない。国際社会はもっと早くこの問題を解決すべきだったが、いまだに何も行われていない。中国という国自体がテロリスト、犯罪国家だ。

Q : 非暴力闘争は情報戦だ。新聞を発行したり様々な方法で訴える必要があるのではないか?

A : おっしゃるとおり。非暴力闘争は情報戦だ。世界ウイグル会議にはHPもあり新聞も発行している。資金の問題だ。

Q : はたして中国との平和友好はよいものか? 台湾もウイグルと同じ経験をしている。中国と平和協定を結べば国を乗っ取られてしまう。平和友好は安全ではない。中国とは喧嘩するときが一番安全ではないか?

A : 世界の大勢は平和友好だ。暴力国家が平和を尻に敷いても世界は黙っている。しかし信じてほしい。暴力を非暴力でやぶる日が来る。私はガンジーを思い出すとダライ・ラマが必ず勝つと思う。平和・自由・民主主義が中国人を目覚めさせようとしている。旧ソ連から西側は平和的に変化を導き出している。全能なるアッラーが自由の日を保証してくださると信じている。

櫻井よしこ 日本国家としては力を持たなければいけない。国家としてアジアの自由と民主主義に貢献するためには軍事力が必要だ。質問者はそのことを言いたかったのだろう。


 質疑応答を終えカーディル議長と櫻井よしこさんが降壇したところで、日本ウイグル協会代表のイリハム・マハムティ氏が登壇。世界ウイグル会議大会の成功を報告し、開催国日本への感謝の言葉を述べました。

イリハム・マハムティ 世界ウイグル会議の大会を日本で開催し、ウイグル人は日本への認識を新たにした。自分の目で耳で知って「こんなことは初めてだ」と涙を流して感動した。みなさんとともに運動を広げ、すべての日本人が目覚めるように、この恩を返したい。

※この間、着席したラビア・カーディル議長が、左隣に座る櫻井よしこ女史の頬をなでて親愛の情を示す場面があった。2人の間にはともに闘う戦友同士のような友情が芽生えているのではないか。これこそ日本とウイグルのあるべき関係を象徴する光景であるように私には思えた。


 シンポジウムの最後に主催者の頭山興助氏が「ウイグルの人たちをかわいそうだと思うのは日本人の思い上がり、傲慢だ。みんな命がけで『お前ら後がないぞ』と教えに来てくださったのだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

 シンポ終了後、ビルを出て車に乗り込むラビア・カーディル議長と握手をさせていただきましたが、その手は細くしなやかで暖かかったことを付け加えておきます。(了)

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